結果は過去に。
努力の過程は人生の糧に。
アプローチが違うから面白い。
吉田 そういえば、廣野は中3のとき400mと走り高跳びで全国大会に行ったけど、高校ではどうだった?
廣野 そこから?!僕は春高バレーで3位になったときの吉田の活躍をテレビで見ていたのに!
吉田 俺が一番輝いた瞬間(笑)。俺のことはいいから。
廣野 2年のときは1600mリレーで、3年ではリレーに加えて個人の400mでもインターハイに行けて、3年のときは両方とも準決勝まで進んだよ。
吉田 お互いがんばったな!(笑)。
廣野 うん。そして間違いなく人生の糧になっている。仕事なんか最たるものだなと。体育会系の人と仕事をすると、個人競技と団体競技それぞれの経験が仕事に出るなと思うことが多い。「個人競技的な思考だよね」と初めて言われたときはちょっとショックだった(笑)。個人競技は「自分だけで」というイメージがあるから。実際どうだろうと考えるきっかけになった。
吉田 団体競技だって個の力も大事だし、必要な場面もある。俺からしたら、個人競技出身の人は自分で責任を持ってやり遂げる能力に長けていると思うよ? 例えば、団体競技的な考え方で言うと、誰かがミスしてもみんなでフォローして、ミスを最小限に抑えることができる。でも、フォローすれば何とかなるって楽天的思考だとも言える。まあ、それは俺がそうやってきただけで、俺視点の考え方でしかないけど(笑)。でも俺は個人競技のモチベーションの持っていき方を尊敬しているよ。その一瞬、ほんのコンマ何秒の世界の一発勝負。その一瞬のために最高の状態に仕上がるよう準備するわけだから。その点、団体競技は大抵のスポーツが、ゲームの中で必ず挽回のチャンスがある。勝つためにプロセスが違って当たり前だし、どちらも仕事に置き換えれば優れたアプローチ方法だと思う。
廣野 独立して事務所を立ち上げてから、水野先生が「陸上は個人競技だが、団体競技でもある」と教えてくれていた言葉を本当の意味で理解できた気がする。学生の頃は、学校対抗の順位のために、個々で高得点を出すことが総合得点を上げることにつながると、そう単純に思っていたと思う。けれど本当はもっと深い意味を持っていたことに気がついた。それが分かってくると、チームで仕事をすることの楽しさが増したし、それぞれアプローチの仕方は違うけれど、同じ着地点に進んで行くのが面白いなと思えるようになった。自分は個人競技的思考で団体競技に臨めばいいんだってね。
廣野 僕が大学で陸上を続けていた頃は、物理的な距離が空いたけれど、社会人になって、歳を取ってもこうして友人でいられるのは、吉田のおかげ。
吉田 いやいや。弊社(日産自動車)の車をご愛顧いただいている廣野様のおかげですよ(笑)。
廣野 僕をスポーツ指導員[公益財団法人日本体育協会公認]の道に引きずり込んだ張本人が何を(笑)。
吉田 実業団まで陸上を続けていた廣野が母校で“お手伝い”の指導だけじゃ、もったいないと思ったから。
廣野 そのときはそれで十分だった。けれど、吉田がバレーボール少年団を立ち上げて、情熱を傾けているのを見て、気持ちが動いた。
吉田 俺は、少年団を立ち上げるのに必要だったから。
廣野 だとしても、少年団を立ち上げて今や県大会の強豪チームにまで育てたんだから、大したものだよ。指導者としていつも心に留めていることって、何?
吉田 挨拶。すべての基本である挨拶ができて初めて、いろんなことが理解できる人間になると思う。
廣野 そうだね。このチームを見ていると、吉田の経験が子どもたちに受け継がれているなと感じる。
吉田 まだまだだよ。チームを強くするという目標はもちろんあるけれど、卒団した子たちが戻る場所を残す、若い指導者やバレーボールの底辺を育てる役割もあると思っている。そこへつなげられなければ、受け継がれているとは言えない。廣野も少年団を作れば?
廣野 子どもが陸上を始める、若い子たちが陸上を続けられる、そういう環境を作りたいとは思っているよ。
吉田 「あかりをつないで―」ってタイトルを考えたのは廣野なんだし、そこは“つないで”いかないと!
廣野 そうだね。恩師に受けた恩があまりに大きすぎて、全部は返せない。だから、その恩を子どもたちへ“つなぐ”ことが“恩返し”だとは思っている。
吉田 伝えたいこと、いっぱいあるんじゃない?
廣野 結果を出すことは自信にもなるから大事なことのひとつ。けれど目標に向かって真剣に努力して、本当に一生懸命取り組んだ過程も大事だと思う。もちろん、結果は努力の先にあるものだから、結果を残せばより多くの人生の糧になる。けれど、努力は裏切らない、結果以外の大切なものもあるんだと、伝えたい。
吉田 自分が受けた恩を子どもたちに“つないで”いると思うと、燃えてきた!ありがとう廣野!
廣野 僕もモチベーションがあがったよ。ありがとう。